留学経験者は「年収1.2倍」という衝撃 中高一貫校で増える海外研修
澤田晃宏氏が書いたAERAニュースの記事を転用させていただきます。2018.7.18
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中高一貫校で、生徒に海外経験を積ませる取り組みが増えているという。見知らぬ土地での経験は、中高生たちに語学力以上のものを与えてくれるようだ。
転校初日。担任の先生がみんなの前で紹介をしてくれると期待していた。なのに、留学生担当のスタッフが付いてきてくれたのは、教室の約10メートル手前まで。教室の場所を指さして伝えると、去っていった。日本でも緊張するのに、ここはニュージーランド。東京成徳大学中学・高校(東京都北区)高1の小林理咲さん(16)は、こう振り返る。
「教室にポンと放り込まれた感じでした。新入生や留学生の対応をするバディと呼ばれるクラスメートがサポートしてくれましたが、自分から話しかけないと友達の輪は広がりません。人見知りの性格でしたが、今では初対面の人とも進んで関われるようになりました」
東京成徳では中学3年生の3学期に、全員がニュージーランドに留学する。最初の2週間は語学学校に通うが、残りは留学生として現地校に入る。各校最大3人で、1クラスには1人だけ。ホームステイ先から学校に通い、留学中は家族と直接連絡をとることも禁じられる徹底ぶりで、3カ月間、ほぼ日本語を話すことはない。高2の田中啓太さん(16)はこう話す。
「3カ月間海外で暮らすことで視野も広がり、海外の友人とは今でもSNSなどで連絡をとっています。留学前に英検準2級に挑戦しましたが、全く届きませんでした。留学後に再度挑戦すると楽々と受かり、2級にも合格しました」
ただ、英語力は「副産物」に過ぎず、狙いはほかにある。中村雅一副校長は話す。
「2003年から希望者を対象に始めましたが、参加者が半数を超え、17年に入学する生徒から全員参加にしました。『親離れした』『積極的になった』『たくましくなった』という保護者の後押しが決め手です。中3の3学期なら、部活動を中断する必要もない。高校受験がなく、中高一貫の6年間を自由に使える大きなメリットです」
中高一貫の強みを生かし、全員参加型の海外研修を取り入れる学校が増えている。東洋大学附属牛久中学校・高校(茨城県牛久市)もその一つ。18年からは中3で実施していたオーストラリアでの語学研修に加え、中2でフィリピンでの語学研修も必修とした。遠藤隆二校長はその狙いをこう話す。
「私立学校に来る生徒は目標や価値観が近く、なかなか多様性を学べない。英語だけでなく貧富の差の大きいフィリピンでボランティアなどを経験させ、国際感覚も身につけてほしい」
高1では一転、京都、奈良への文化学習に行く。
「海外では日本の伝統文化を聞かれることが多いが、答えられない。日本のことも勉強し、それを中3のときにオーストラリアで世話になったホストファミリーに報告するなど、中高6年の一貫したプログラムで、グローバル人材を育成します」
高2ではシンガポールでの課題学習を予定している。生徒それぞれが深めた課題をアジアの学生と議論する。
「英語は下手でもいいから話す自信をつけさせるにはアジアだ。同じネイティブではないアジア人と議論するほうが、自分も負けまいと刺激になるんです。アメリカなどだと体も大きく圧迫感があり、どうしても自由に議論できない」(遠藤校長)
一橋大学国際教育センターの太田浩教授らは、3カ月以上の留学経験者4489人、非経験者1298人を対象に留学効果を比較・分析し、共著『海外留学がキャリアと人生に与えるインパクト』にまとめている。
「海外は日本のように講義を一方的に聞くスタイルではなく、自ら意見を発信し、プレゼンテーションなどで評価される。英語力は勿論だが、積極性や共感力、様々な項目で留学効果が表れる。結果として年収も留学経験者が大卒で非経験者の1.22倍、大学院卒で1.43倍と上回った。時間があるのは中高一貫の強み。海外研修は今後も増えていくだろう」(太田教授)
ただ、「海外研修こそ格差が広がる。一部の私立学校だけではなく公立学校も含めて、プログラムを充実させる必要がある」と付け加えた。(編集部・澤田晃宏)
※AERA 2018年7月16日号より抜粋
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